仲直りだって、きっとできるよ。
「大迫の家の場所を聞いてみて、一緒に行ってくれって、俺が頼んであげる」
「え? でも、悪いよ。蔦くんは関係ないし」
「気にするな。どこにあるのかもわからないのに闇雲に歩いたって無駄なだけだ。田代さん、あんまり出歩いたりはしないんだろ?」
コウの言葉に里奈は頷きながら、だがそれでもイジイジと視線を泳がせる。
「でも、やっぱりツバサに頼ってばっかりじゃ」
「人間、何もかも一人でできるワケじゃないよ。田代さんは人に頼る事に気を使い過ぎ。大迫と会ってその先をどうするか、それは自分で決めなくちゃならない。その代わり、頼らなくちゃならないところは、頼ってもいいんだよ」
いいのかな? 私、もっと頼ってもいいのかな? 頼りすぎのダメな人間ってワケでもないのかな?
コウの言葉が力強くて逞しくて、気弱な里奈は素直にコクリと頷いてみせる。
「じゃ、じゃあ、お願いしようかな」
傍から見たら、実に奇妙な光景だろう。以前は付き合い、蟠りを残して別れた二人だ。こうして何事もないように会話しているなど、信じられないと思うかもしれない。
奇妙と思えるくらい、里奈にとってはもはやコウは大した存在でもなく、コウの頭はツバサ一色なのだ。
中学一年のあの頃の二人には、それが運命の恋だとも思えた。これ以上好きになれる相手などこの世にはいないはずだと信じていた。
二人は、薄情なのだろうか? それとも恋心というものが、所詮はその程度のものだということなのだろうか?
不確かな二人の心情をクスクスと笑う子供ように、だが優しく見守る母のように柔らかく風が吹き抜ける。乱れた髪の毛を、里奈は軽く押さえた。
「ごめんね、蔦くんにも迷惑かけて」
「いいよ、気にするな」
コウも頭に手を当てて、ガシガシと照れくさそうに笑う。
「で、さ。ツバサ、中にいる?」
「あ、ううん。今日はまだ来てないみたい」
「あっ そう」
里奈の言葉にコウは軽く辺りを見渡す。
「たぶん、もうすぐ来るとは思うんだけど。中で待ってる?」
「うーん」
中って、きっと子供がバタバタうるさいんだろうな。別に子供は嫌いじゃないが、どうもあの無邪気な存在は苦手だ。何も疑わずに近寄ってこられると、どうしていいのかわからなくなる。
コウはふーっと息を吐き、腰に手を当てた。
「いや、いいよ。どうせもうすぐ来るんだろ? ここで待ってる」
「ここで?」
キョロキョロと辺りを見渡す里奈に、コウは笑った。
「今日は雨も降らねぇだろうし、天気もいいしな。それより、田代さんはもう戻った方がいいんじゃないのか?」
「え? 私は、えっと」
言いながら後ろを振り返る。出てくる時はまだ静かだった家の中が、なんだかいつの間にか賑やかだ。
「あ、もうすぐ朝ごはんだ」
「ほらほら、早く行かねぇと食いっ逸れちまうぜ」
「あ う、うん」
別に里奈はそれほど食い意地の張った人間ではないが、促されて抵抗するほど気の強い人間でもない。
「じゃあ、行くね」
軽く頭を下げ、パタパタと唐草ハウスへと戻っていく。その、久しぶりの再会にしては実に呆気なく去っていく後ろ姿を、コウは苦笑しながら見送った。
田代さんも俺の事、もうなんとも思ってねぇんだな。もともと、どれほど想われていたのだろうか?
自分を責める瞳を思い浮かべ、空を見上げる。
「だって蔦くん、私を疑うんだもん」
想われていたかどうかはわからないが、とても頼りにはされていたんだ。でも、自分は護ってやる事ができなかった。
ずっとそれが心残りだった。悔しくもあった。
だからツバサは、ちゃんと護ってやらねぇとな。
決意する心に、空が高い。
そうやって、塀に凭れて空を見上げるコウの姿をツバサが目にする事はなかった。
すぐ近くには居るが、ツバサの瞳にコウは映ってはいない。一本入った路地の、少し離れたマンションの入り口の茂みに腰を下ろし、身を小さくして丸まっている。
どうして? どうしてコウとシロちゃんが会ってるの?
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